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クランクケース内圧コントロールバルブ

内圧コントローラーの効能と注意点

さて、クランクケース内圧を下げる事についての意義については前述の通りだが、実際に内圧コントローラーを取り付けた場合どういった効果が望めるのか、それによって起こりうる不具合は何かを考察してみよう。


効果その1…始動性の向上
抵抗が減るためクランキングが軽くなる。キックが軽くなったり、セルモーターやバッテリーへの負担が減る。

 

効果その2…エンジン回転の安定化
特にアイドル回転などの低回転で顕著

 

効果その3…耐ノック性の向上
低速トルクが一回り太くなるため、発進時などのノッキングが抑えられる。これについては二輪のDUCATI用内圧コントローラーを取り付けたときにその効果が顕著であった。後述

 

効果その4…振動の低減
エンジンの微振動が低減される。

 

効果その5…オーバーレブ特性の向上
頭打ち感が弱くなり、軽やかに高回転まで回るようになる。

 

効果その6…燃費向上
抵抗が減ればアクセルを開けなくても速度がのるので燃費向上に寄与する。

 

効果その7…エンジンブレーキの低減
過剰なエンジンブレーキが低減される。これによってエンジンの扱いやすさが向上する。

 

 

では逆に注意点として何が挙げられるだろうか?


注意その1…エンジンブレーキの低減
過剰なエンジンブレーキが低減されるのが特徴の内圧コントローラーだが、旧車などで元々ブレーキ性能がプアなものは知らず知らずのうちにエンジンブレーキに頼って運転している場合がある。
こういった車種に内圧コントローラーを取り付けると思ったように止まらない場合がある。
ブレーキの強化をあわせて行う必要がある車種もある、という点は指摘しておきたい。

 

注意その2…定期的なメンテナンスが必要である
エンジン内と外気温の温度差などにより、エンジン内で結露を生じる場合がある。
通常はエンジンを運転させ続ける事で蒸発するが、チョイ乗りなどを繰り返すと水分が蒸発できずにオイル内に落ちてオイルと混じって乳化と呼ばれる現象を起こす。
これはオイルがクリームのように固まってしまう現象だが、ある程度発生は仕方のないものとも言える。
このクリーム状のオイルが内圧コントローラーに付着すると、内圧コントローラーの正常な作動を妨げる事がある。
ブリーザーからブローバイガスが出て行かなくなるとケース内の圧力が上昇し、最悪の場合オイルシールなどからオイル漏れなどを起こす可能性がある。
年1回程度で構わないので内圧コントローラーを取り外して洗い油やパーツクリーナーなどで洗浄すべきである。

 

注意その3…振動が減る事によってパワー感が減じたように感じられる場合がある
エンジンがスムーズに回転する事によってガッツ感を感じられなくなる可能性がある。これによってパワーが落ちたように感じるケースもあるようだ。
(↑ただし実際にはパワーが上がっている事が多い。これはクランクシャフトをバランシングしたり軽量なピストンに交換した時もそのように感じる場合がある)

 

注意その4…効果は車体の個体差や個人のスキルによって変動する
エンジンの形式(気筒数・排気量など)や状態、また運転者の習熟度や技量によってその効果の感じ方は異なる。
また、シャシーダイナモ等に掛けてもはっきりと数字に出るものもあれば出にくいものもある。
(なので実際の購入にあたっては、できれば内圧コントローラーを持っている人にコントローラーを借りてつけてみるか、コントローラー付きの同型車種に試乗するなどして、効果を確認される事をお勧めする)

 

また、これは取り付け時の注意だが逆接には十分気をつけること
逆に取り付けるとオイル漏れなど重大なトラブルの原因になる場合がある。
取り付けに当たっては内圧コントローラーの角度にも注意する。
横向きに取り付けることは可能だが、上下倒立状態ではバルブが落ち込んでしまって正常に作動しない場合がある。
取り付ける場合は内圧コントローラーを90度以上倒して取り付けないように留意する。

 

基本的にはブリーザーパイプをカットして内圧コントローラーをはさむだけなので作業の難易度は決して高くないが、オイルが吹いたりすると事故になる可能性があるので気をつけられたい。

一般的な疑問

クランクケース内を減圧したときに、よく言われるのは「ピストンが上がる時にケース内が負圧になって抵抗になる」と言うものだが、これは正論だが正しくない。
なぜなら空気とは『圧縮させるより伸張させる方が抵抗が小さい』からである。


Fig.05 空気は圧縮するより伸張させるほうが力が小さくて済む(抵抗が小さい)

 

注射器などで実験してみるとよく分かるが、空気を入れた注射器を押すのと引くのでは抵抗がまるで違うことに気付くはずだ。
勿論引くほうが小さな力ですむ。
これはピストンが上昇する時と同じである。
たとえピストン上昇時に+1の抵抗があったとしてもピストン下降時に抵抗値が-2になればトータルで-1になる……と言うのは些か乱暴な理屈だが、理解はしやすいのではないだろうか。

 

また、単気筒では確かにクランクケースの容積が変わってしまうが偶数多気筒エンジン(2気筒・4気筒・6気筒など)で逆位相クランクを持つものは、一つのピストンが上がったときに隣り合うピストンが下降するためクランクケースのエアボリュームがバランスする筈だという理屈があるがこれもそうと断言はできまい。

 

なぜなら慣性力を持った空気が狭隘(きょうあい・細く狭いこと)な隙間を縫って移動する速度は限りがあるからであり、ケース内のエアフローを考慮したエンジンはまだまだ少ないからだ。
(NAG S.E.D.永冶氏のアドバイスによりクランクケース隔壁に穴が開けられたモデルは存在する)
また、最新モデルなどクランクケースが極端に小さく、気筒間のエアの移動が困難なものも存在する。無論クランクケース内の空気が動かなければ多気筒とは言え単気筒の集合同然で、ポンピングロスが生じてしまう。


以上のことを踏まえて、クランクケース内をあらかじめ減圧しておくと言うことは、レシプロエンジンの効率を高める上で効果があると考えられるのだ。

 


ではクランクケース内はできるだけ負圧状態にしておくのがよいかと言えばノーである。実際レーサーのエンジンではクランクケース内はほぼ真空に近いところまで減圧されるそうだが、オイルシールやオイルラインに負圧対策を施していない市販エンジンにそこまでの減圧を行ってしまうと弊害が出てしまう(※)ため、ある一定の気圧を保つのがよいとされる。