キャブレターとは何か / キャブレターの種類と構造 / メンテナンスについて / セッティングとは / エンジンを掛ける前に / セッティングの実践 / 用語集

エンジンを掛ける前に

「さぁ! 始めよう!!」と意気込む前にまずやらなくてはならないことがあります。

それは、

1. 完全な整備
2. 初期状態の把握

です。
エアクリーナーが汚れていたり、キャブレターをつないでいるパイプ(これを「マニホールド」といいます)にひびがはいっていたり、複数のキャブレターがある場合同調が取れていなかったりするとせっかくセッティングしても意味がありません。それらを直した瞬間セッティングが狂ってしまいます。
また、エンジンそのものの調子が悪くなってきたからレーシングキャブレターへ交換というのも、もったいない話です。
ここではあくまで車体やエンジンが完璧に整備されている事が前提になっていますので、キャブレターを触る前に一度しっかり整備しておきましょう。サスペンションやチェーンの張り具合など一見キャブレターと関係ない部分も、セッティングに微妙な影響があるものです。

 

それからキャブレターの部品に手をつける前に必ず最初のセッティングをメモしておきましょう。
キャブレターを一度分解してメーンジェット(MJ)やスロージェット(SJ)の番手、ジェットニードル(JN)の番手とクリップ段数、パイロットスクリュー(PS)やエアスクリュー(AS)の戻し回数(締め込んでいって軽く止まったところからの戻し回転数の事です。「どれだけ回したら止まるか」を調べましょう。ギュッと力任せに締めつけるとネジの先がつぶれてしまうので気をつけましょう。ちなみにASのないキャブレターもあります。念の為)、パイロットエアージェット(PAJ)の番手(こちらもない場合があります)などをメモすればよいのです。

 

なお、固定ベンチュリー型のようにJNを持たないキャブレターもありますが、MJやSJ(メーカーによってはパイロットジェット(PJ)とも呼称されています)はある筈なので、とにかくセッティングパーツは現状を書き出しておきます。
例えメチャメチャなセッティングにしてしまっても、これで元に戻れるわけです。

 

キャブレターセッティング時にはガソリンの流出がつきものです。
作業は火気厳禁、くわえタバコなんてもっての外です。
それからセッティング箇所は1度に1箇所だけにしましょう。
いろんな所を1度に変えると訳が分らなくなります。

 

セッティングの手順

元通り組み立てたら、エンジンを始動します。
完全に暖気されたらセッティング開始です。

まずは低回転域です。
ここの調整は主にPS、SJ(PJ)、AS(SAJ)で行います。

1番最初はPSです。まずはアイドルスクリュー(スロットルストップスクリュー)を回してアイドリングを2,000rpmまで上げます。その状態でPSを回してみます。複数キャブレターがある場合は各キャブレターの設定を揃えましょう。PSを1回転締めるのなら全部のキャブレターのPSを1回転締めるという事です。
タコメーターを見ながら(ない車種は音で判断するしかありませんが)最も回転が上がるところを探してください。

PSはおよそ1回転戻しから2回転3/4程度が守備範囲ですので、この範囲を超えてしまう様ならPJの出番です。

PSは戻していくと濃く、締めると薄くなりますので、緩めてアイドル回転が上がる場合は現状で薄いという事です。もし2回転3/4を超えてもアイドルが上がりそうなら、PJをひとつ大きな番手に付け替えてもう一度PSを調整します。
反対に締めるほどアイドル回転が上がり、戻し回数が1回転よりも小さくなりそうならPSの番手を下げてやりなおせばいいのです。

そうやっていくと、いずれ「この辺かな?」というセッティングが出るはずです。
PSの戻し回転数にある程度の幅があるときは、その幅の真中あたりへ合わせておきます。

引き続き低速のプリセッティングです。
PSが決まったら、はやる気持ちを抑えてアクセルを空ぶかしします。
3000回転から4000回転付近で安定するようにスロットルを保持した後、急激に全開にして一瞬ぐずった後についてくればスローはほぼ合っていると判定します。

 

何事もなく吹ける場合はスローがやや濃いと判断するべきで、PSの回転数をもう一度見直します。
反対にこれでプスンと止まってしまうならやや薄いようです。やはりPSの回転数を見直します。


そうしてスローが決まったらアイドルをその車輛の規定の回転数へ合わせて、PSをもう1/4回転ほど緩め(濃いめに調整)ます。

 

ところで筆者は以前、濃い混合気を少量吐出することと薄い混合気を大量に吐出することはトータルで見たときに燃料の絶対量は同じになるならどちらも大差がないと考えていましたが、これは大いに間違いで、正しいバランスの混合気を正確な分量だけ吐出すると言うことが唯一の正解であるということを身をもって知ることになりました。

横着は禁物ということですね。(苦笑

image_marking

アクセルペダルのクルマはなかなか目視が難しいですが、スロットルグリップの単車は比較的簡単です。スロットルホルダーとグリップにマーキングしておきましょう。

開度はあくまで目安なので、大体で構いません。
(単車の場合は特に)セッティング中はチラッと見る程度ですので1/8や1/16など、あまり細かく目盛る必要はありません。(じーっと見てると危険です!)
A/F計を取り付けられた方は、さらに運転がおろそかになりがちなので、特に気をつけましょう。


さて、以上のプリセッティングをクリアして初めて実走を行います。
実際の走行ではまずスロットル開度1/8~1/4をAS(PAJ)を決定したのち、1/8~1/2までをJNストレート径で決めます。
次に1/4~3/4ををJN段数(およびJNテーパー角)で決めていき、最後に全開でMJを決定します。
スロットル開度と各セッティングパーツの関係を表にまとめると以下のようになります。

image_setting sheet

表を見ていただければお分かりのように実は各パーツは非常に広い範囲で被っています。
スローを司るはずのパイロット系などは、全開付近にいたるまで非常に広範な開度に影響を与えます。
スロー系はメーン系と独立した燃料経路であり、たとえスロットルが全開であっても燃料がスロー系から吐出されます。
つまり、スロットル開度が大きくなれば影響力は小さくなるものの、スロー系はすべての開度に影響を与えるのです。
スローからセッティングを始める所以です。

 

そうして低開度から開度を定めて対応するパーツを調整していきますが、加速ポンプを備えるキャブレターには注意が必要です。
1/2開度なら1/2開度でしばらく走ってみてからでないと、ポンプがガソリンを吐出している間は正しい判断が出来ません。


確かめる意味でも加速ポンプを指で強制的に動きを止めた状態を試し、結果難なく回転上昇するようであればポンプを殺しても大丈夫です。


また、個別の開度でちょうどよくても、全体を見渡したときにバランスが崩れてしまうということもありますので、個別の開度で一通りのセッティングが出たなら全体のバランスが崩れていないかチェックしましょう。

余談ながら筆者の1JKは以前、全開にすると薄い症状が出たのですが、MJやJNテーパー、段数を変更しても思うように改善できなかった時期がありました。
キャブ仙人さまこと永冶氏にお会いして診て頂いたところ、原因は本来1/2開度までしか影響のないはずのJNのストレート径とPSの開けすぎにありました。
中低速が濃いために全開域をそれ以上濃くすることができなくなるという状態だったそうです。

 

 

冒頭で説明した様にキャブレターはエンジンの吸入負圧を利用しますので、スロットル開度と実際のエンジン回転数にはズレがあります。

アクセルを開けてもエンジン回転が上がらないということもある、と言うことです。例えば少排気量車で急な坂を高いギアで上ろうとするようなときを想像するとわかりやすいかもしれません。(ちなみにインジェクションでもこのズレは存在します)
使用するギアによっても開度とエンジンの反応は違ってくる……という点も参考までに記しておきます。

 
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